むかし むかしあるところにそれはそれはとてもおおきくてゆたかなくにがありました。 そのくにはじょうかまちも、おしろも、そしてひとびとのかっきもあかあおきいろ、むらさき、みずいろといった にじいろのようなかがやきをもち、このくににやってきたものはおもわずためいきがでるほどです。 それもこれも、このくにのえらいおうさまのもっている「ふで」のおかげです。 このふではとてもふしぎなちからをもっていました。 まずおうさまはふでに「いろ」をつけます。こんかいはあかいろをつけたようです。 そして「えいっ」とおうさまがふでをふるとあらあらふしぎ。なにもないところからトマト、いちごといったたべもの。 そしてルビーやさんごといったほうせきとありとあらゆる「あかいもの」がでてきたのです。 そうなのです。このふでは「いろ」にのっとったものをなにもないところからうみだす「まほうのふで」なのです。 きいろの「いろ」からはさいこうきゅうの「レモン」、みどりの「いろ」からはあまくておおきな「メロン」 あおの「いろ」からはうみのようにひかりかがやく「サファイア」、もものいろからは「あい」までうみだせたともいわれていました。 こうしておうさまのまほうの「ふで」によって、このくにのひとびとはほしいものはなんでもてにはいったのです ところが、このくににとてもおこったものがいます。そうです。かみさまです。 かみさまはまんげつのでるよるにやってきました。 「おまえたちは、なにもないところからものをうみだしすぎた。そのせいでいませかいはとてもこわれはじめている。 いますぐそのふでをすてなさい。」とおっしゃいました でもおうさまは、そのふでをすてようとしなかったのです。あまりにもべんりなそのふでにたよりきっていたおうさまとこくみんは すっかりなまけものになっており、ふでをすてるなんてとんでもないとかんがえていたからです。 かみさまはたいそういかりました。 すぐさまかみさまはくににおおきなじしんをおこし、そしてまちをひのうみにしてしまいました。 うみににげようとするたみはおおきなつなみにまきこまれ、やまににげようとしたたみは、 よぞらにかがやくまんてんのほしをおとしそれにあたってしんでしまいました。 しかし、あきれたことにおうさまはそれでもふでをわたそうとしませんでした。 ふでさえあれば、おうさまはすぐになんでもできるとおもったのです。 かみさまは、そんなおうさまにかみなりをおとしました。こうしてくにはほうかいしてしまったのです。 かみさまは、すぐにふでをさがしました。ところがふしぎなことにふではどこにもなかったのです。 からがらにげだしたものたちは、これをじゅうぶんにはんせいし、ふでにたよらずじぶんたちだけのちからでがんばらなきゃとおもい、 いっしょうけんめいはたらきましたとさ。 めでたし。めでたし。 … 「これがこのアヤムバルスにつたわる伝説だよ。」 男は読んでいた本を静かに閉じ、読み聞かせていた街の子供たちのほうを見た。 男の読み聞かせに、子供たちは十数人ほど集まっていた。いつもやっている遊びに退屈を感じたのか。よくここまで集まったものだ。 本を読んでいる間、数が多かった割に子供たちはひそひそ話すでもなく、無駄に動きまわるでもなくじっと聞き入っていた。 きっと、俺の上手い読み聞かせに感情移入したんだろうな。 しかし、どうやら子供たちはそう思ってはいなかったようだ 「えー つまらなーい!」 「なにがめでたし、めでたしだよー!全然めでたく無いじゃんかー!その王国は結局滅びちゃったんだろ?」 「そうだーそうだー!」 今まで、じっとしていた分のエネルギーを発散するかのように矢継ぎ早に子供の文句が飛び交い、本を読んでいた男はおもわずたじろいでしまった。 あれ、こんなはずじゃあ・・・と思いつつ男はあわてて本の補足を弁解した。 「いやまぁ昔話はハッピーエンドだけで終わるんじゃないんだよ。それよりもさ、この話は「何事も頼りっきりにしないで、全部自分でやろう」って言う教訓をだね・・・」 しかし、いかにも理屈っぽそうな少年がそこに割って入り、 「何言ってるんだよー。結局そのまほうのふでって見つからなかったんだろ?もしそういう教訓を出したいってんだったら「神様はその筆を燃やしました」 っていう一文入れなきゃダメだろ。そうしなきゃもしかしたらどっかの馬鹿が「俺もその魔法の筆をさがす!」ってことになるだろ。教訓どおりにならないし仮に見つかったとしてもその王国の二の舞じゃん。」 と言ってのけた。 子供たちはその少年の言葉にすっかり同調してしまい、 「やっぱりそうじゃん!」 「ダメダメだな、その伝説」 「伝説なんてたいしたこと無いんだな」 「つまんねー」 「帰ろうー」 大勢いた子供たちは、口々に文句を言いながら男のことに背を向けそのまま散り散りにいなくなってしまった。 すっかり取り残された男は(そんなこと考えながら話聞くなって)と悪態をつきつつも子供たちの言った事に少し納得してしまった。最近の子供は賢いんだなぁ。 すると、さっきの理屈っぽい少年がやってきた。すると口元に人を小ばかにしたような笑みを浮かべ 「にいさん、戦闘の実力はあるかもしれないけど、読み聞かせする才能は無いね」と言い残しそのまま走り去った。 前言撤回。ただのマセガキだ。 すっかり男の前には子供たちがいなくなり、男の前にはただひんやりとした空気が残った。 男はやれやれと思いつつも持っていた本のほこりをぽんぽんと叩き払った。 古い本なのですこし力の加減を間違えたらそのままぱらぱらっと弾けそうだ。 ・・・ あんな指摘を受けていた本だけど、ちゃんとした王立図書館から持ってきた本なのにな。 子供でもわかりやすいと思って持ってきたのに、ここまで受けが悪いとは。 そうだなぁ、こんどはウケのいい本を持ってくるか。あ、物語の要所要所にバチバチって演出入れると面白いかも。 頭の中でどうやったら子供たちが喜ぶかの思惑を巡らせているとどこからともなく女の声が聞こえた。 「おーい!隊長ー!」 「さて、そろそろいくか」 男は服についた砂を払いながら座っていた椅子からその長身の細い身体をもそもそ動かせながら立ち上がった。 日はすっかり傾き、藍と赤が水の中で混ざり合ったような不思議な色の空をしている。 西南に光り輝く星を男は何を思うでもなく見つめながら、男は声のするほうへ素肌に感じる冷たい風を払いのけるかのように駆けて走った。 少し走ると男を呼んだ声の主の女が男を待っていた。 女はむくれつつ「城から抜け出してどこ行ってたの!相変わらず目を離すとどっかいっちゃうんだから」と男の背中を叩いた。 「いてーなー。別にいいじゃん。暇なんだし」 「あんたは暇してるような身分じゃないでしょ。ともかく王様が呼んでるよ。はやくして」 「はいはい」 暗くなった道をオレンジ色のガス灯を照らす下、二人は城に向かって走り出した。 「あ、そうそう。隊長勝手に図書館の本持ってったでしょ。大臣めっちゃおこってたよ」 「え、まじで?」 本格的な冬はもうすぐ始まる。